火曜日。仕事に行った。仲良くなったレジェンド上司が先日まで出張で博多に行っていたそうで、博多のマイングからそのまま送られてきた博多通りもんの段ボールを渡したら、蒸気屋のドーナツをもらった(懐かしい!)。福岡の話をした。上司は明月堂の西中洲貴賓館ろまんすというお菓子にたいそう感動したらしい。「(同行した先生に)福岡の美味しいものは美味しすぎるから基本的に福岡から出てこない、通販もやってないと聞いた」「お金渡すから、福岡帰る時に買ってきてもらえないかなあ」と言われ、爆笑した(しかもその後調べたら普通に通販でそのお菓子は売られていて、社内チャットでURLを送ってあげた。無事に買えただろうか)。本当に少女のままのような人に、わたしは見える。
夕方。真希さんの友人がわたしの恋人の家から徒歩一分ほどのところに喫茶店をオープンするらしく、今日はその内見の日だったようだ(そこは元はスナックだ)。オフィスビルの喫煙所でたばこを吸っていたら、「智春ちゃんの恋人って脚立持ってないかなあ」と連絡が来た。絶対に持っているので、恋人に連絡をした。見立て通り、わたしが仕事に戻ったあと、恋人は脚立を持ってスナック跡地に向かい、真希さんやその友人たちと少し話したそうだ。不思議な感覚。わたしのいないところで、わたしをよく知っている人たちが関わり合っている。
家に帰る。スーパーの帰りに近所のペットショップを通ったら、ほんとうに無邪気なままの子犬(子犬というものを、久しぶりに見た気がした)がショーウィンドウの中を走り回っていた。わたしはペットショップというものが見ていられなくてつらいから苦手なのだけど、最寄りはほとんど過疎で住んでいる全員がやる気がないから(犬からしたらまじまじと見られる機会も少ないわけで)、犬はほんとうに元気だった。張り紙にはその子の写真と数百万の数字が書いてあった。あのまま元気でいてほしいと思う。これからもしばらくはスーパーの帰りに確認してしまうだろう。
夜は恋人が家にやって来た。一週間ぶりくらいなんだけど、なんか色んなことを勝手に考えていたせいで、ほんとうに久しぶりに感じた。懐かしい気持ちが押し寄せた。持って来てくれたせり鍋をつつき、バゲットをキッチンに二人して立ったまま食べた。楽しかった。美味しいものを食べて、笑って、こんなに単純でいいんだろうか。安心してしまった。わたしはやっぱり、かなりのばかだ。
酔いが進み、最後はサボテンに指を勢いよくぶつけ、八本ほどサボテンの棘が指に刺さったことを覚えている。なんだかじわじわと毒が回ってくるような、不思議な痛みだった。全部綺麗に抜いた。幼い頃、母が「どんな風にお腹が痛むの?ここがしくしく痛むの?」とよく聞いてきたことが蘇ってきた。あの時も今も、「どんな風に痛いか」なんて言葉にできないし、母が多用していた「しくしく」という感覚も正直分からない。だけどわたしの中には確実に「しくしく痛む」でしか表せない痛みがある気がした。寝た。
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水曜日。眠りが浅くてちょっとつらい。今日は仕事が忙しかった。単純作業はずっとやっていると次第に怒りに変わっていくから、自分の浅はかさを見るという点で二重の意味で疲れる。お昼は昨日恋人にもらったお手製の焼き芋(最近買ってきたストーブの上で焼いていた)を食べた。こんなOLは自分以外あまりいない気がした。OLという概念に高校生の頃から憧れているが、その発端がそもそもバカリズムの『架空OL日記』であったため、わたしはずっと間違った「嘘OL」像を一人きりで突き進んでいる。
残業して山手線に乗っていたら、目の前に職場の先輩が立っていた。二つのスマホを忙しなく動かしていた。目黒から代々木まで、お互いに一切気が付かなかったことに二人で笑った。「お互いに注意力がないんですかねえ」と言われる(うるせー)。先輩は阿佐ヶ谷のジビエ料理屋に遅刻しているらしく、新宿で降りる人の波になんか言いかけながら消えていった。特に言葉は追わなかった。
家に帰ってクラムチャウダーをほとんど1リットル近く作った。わーい。湯船でそれいゆのZINEを読んだ。「お店をやる」ということの尊さ、それを選択する人たちにどこか共通してあるようなてらいの無さを感じた(ちょうど最近そう思っていた)。しかもそれいゆの経営陣にはそこに「チャーミングさ」という大きな特徴が追加で鎮座していて、わたしは大学時代からずっと、それに笑わせてもらっているし助けられている。やはりお店をやる人たちはどこか海とか大地のようなところがある。一生敵わない。わたしは自分で思っているよりもかなりそれいゆのことが好きみたいだ。こんなに居場所だと思えるお店は確かに他にない。あまり誇れるものなどない人生だけど、この長く愛されているお店の歴史のはじっこにわたしが多分いるということを、少し誇りに思った。素直に嬉しかった(今度マスターたちにも伝えてみたい)。
今日はめずらしく良い気分だった(ホントは今日遊ぶはずだったけどその約束がカスみたいな感じで破られてもけっこうどうでもいいくらいには良い気分だった)。生活とか人生とか、もしかしたらシンプルなことなのかもしれない。結構簡単に幸せとか感じてしまってもいいのかもしれない。どうせすぐに気持ちも移り変わってこの感覚だって流れていくけど、今日はそう思ったということを残しておく。わたしの幸せは、ひとまず、自分の働いたお金で納得した美味しいものを食べられている時だと思った。あとは本が読みたいな。
♬ https://music.apple.com/jp/album/cherenkov/1713511545?i=1713511908 (CHERENKOV/奥名懋一としゃるるろわ)
