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Oct Letter✉︎vol.3
- Mon,Oct,19 晴れのち曇り。外はこれでもかと陽が降り注いでいて、暑そう。朝方に届いたメッセージを見て、嫌になってまた寝たら、ぐずぐずと時間を過ごしてしまった。私は色々な人に色々な形で愛されているのだ、きっと、と思う。愛のやり方はみんなそれぞれだから、時にはそれが理解できない形で表れたり、私としては納得できないような気持ちになることだってあるが、それもその人の愛の形、やり方なのだということは分かっている。日記を書いていたら時間が無くなってきて、コインランドリーと家を足早で往復した。昼から新居の鍵を受け取りに行く。薄暗く古い建物、無骨な雰囲気の管理会社で、居心地が悪く、出されたお茶を全部飲み干してしまった。その足で新居に行ってみる。まだぎこちないが、ここはもう私の場所なのかと不思議な気分になる。ビールを飲み、コンビニのコロッケを食べて、部屋のあらゆる場所を計測して回った。疲れた。夕方の電気もまだない部屋の中、窓を開けて畳に横になり、電車の音と17時のチャイムの音を聞いていた。早朝なのか夕方なのか分からない、青白い光が窓から見えた。部屋が真っ暗になってしまう前に家に帰る。私は中野の街のことが好きだった。広いまっすぐな道路、緑も多くて街もにぎやか。夜もどこかに必ず人がいて、寂しくても寂しくなかった。家までの帰り道も好きだったし(みんなには遠いと言われていたけど)、大きな公園も、銭湯も、19時になると毎日必ず笛を吹いて歩く人がいることも、実はけっこう気に入っていた。素直になるのに時間がかかった感じはするが、確実に私の街だった。そういうことを考えていたら、これからのことが不安になった。私は次の家や街のことを愛せるだろうか。私の居場所だと、いつか安心して思える日が来るだろうか。自由であるということにはいつも寂しさがつきまとう。目を向けすぎると、目の前の生活が立ちゆかなくなるような。家に帰ると、外からはいつものように下手くそな笛の音が聞こえた。この家に住んで三年以上になるが、笛は一向に上達する気配がなく、今の私には、苦しまぎれにひねり出されるその音程すらも切ない。家ノイローゼだ、と思った。夜は、何かに追い立てられながらネットで新居のものを買いまくった。ごはんを食べるのも面倒になり、チーズとパテだけで済ませる。なんか疲れた。
- Tue,Oct,20 晴れのち曇り。寝起きが悪い。ぼんやりと、まだみんなが幸せだった頃の夢を見た。今はもう話すこともできない人たちが、とても楽しそうに笑い合っている。私はそれをどこかから見ていた。何となくみんな若かったから、私と出会う前の話かもしれない。あの時で全部止まっていたら、もしくはあのまま、私とは最初から最後まで関係のない場所で物事が進んでいたら、誰もこんなに傷を負わなかっただろうか。最後に見たシーンは電車だった。電車を降りた人と目が合って、乗りっぱなしの私はそのまま運ばれていく。何かを話したそうな目だった。気のせいかもしれない。久しぶりに意志を持ってベッドから動きたくなくて、自分のベッドはとても甘く優しい場所に思えた。起きてバイトに向かう。頭がふわふわしているのは、きっと昨日まともな食事を取っていないからだろう。神経を尖らせて自分の状態を感じてみると、たしかにお腹が空いているような気がした。コンビニで買ったおにぎりを、駅のホームでゆっくり食べる。隣に座ってきたお姉さんもおもむろにパンを食べ始め、一瞬だけの謎の連帯が生まれていた。バイト。平日の朝の時間帯はのんびりした時間が流れている。数時間だけ働いたあと、妙蓮寺に向かう。横浜中華街行きの各停電車はみんな一人で眠っていて、とても落ち着く場所だった。何となく新宿から心がざわざわしていたが、ようやく落ち着くことができた。私はこれからも、ただ毅然としていればいいのだ。自分の尊厳のため、自分を癒やすために。ビールとチーズを買って、なつみさんの家に行った。食事の支度をしてくれているなつみさんと、チーズ、仕込みの余りのセロリを味噌とマヨネーズにつけたもの、をつまみながらお酒を飲む。なつみさんの家からは大きな木と椰子の木、煙突なんかが見えて、一瞬旅行にでも来たような気分になる。風も気持ちよくて綺麗な夕方。幸せな時間だった。柿のカプレーゼ、秋刀魚のオイル蒸し、牛スネ肉の赤ワイン煮。どれも美味しくていいにおいがする。なつみさんが買ってきてくれたワインを二人できちんと二本開けた。私が引っ越すのが寂しくなってきた、と言ったら、なつみさんは「それは“卒業”だよ。ここは学び舎で、(人がいるなら)相手は学友で、卒業しても絶対に次があるから寂しくない!」と言ってくれた。面白かったし、助かった。ゆっくり飲んで、ちょうど良く酔った。まだこれから飲みに行くと言うなつみさんと、電車の中で別れた。ありがとう、次は占いかな。その前に映画と庭園美術館と、あと私の新しい家にも遊びに来てほしい。家に帰ってすぐに寝た。(PS)今日、新宿のホームで、ブライスが歌う楠瀬誠志郎を思い出したよ。あの日楽しかったな。
- Wed,Oct,21 晴れ。朝から、一昨日頼んだ荷物が届くのを待つ。結局AM指定の荷物は正午を過ぎて届き、古道具の靴箱、ラックが家の仲間入り。今日は風がとても強い。どこかで缶が地面を転がっている音がする。昼過ぎ。シャワーを浴び、清潔な体で飲んだハニーバニラカモミールがすごく美味しかった。休みに入る前、何だかんだ気にかけてくれているような上司が突然くれたお茶だった。大きいのがあったら家に置いておきたい。夕方から外に出る。最寄りの大きな公園のそばでは、吹き飛ばされてしまいそうな風に乗って、たくさんの落ち葉が宙を舞っていた。一つ一つの葉が秋晴れの光を受けている。その光景が、最近読んだ本のカバーとリンクした。ついこの前まで、スピッツの「運命の人」の歌い出し―「バスの揺れ方で人生の意味が解った日曜日」という歌詞が分からなかったのだが、その時ほんとうに何となく、その意味が、その歌詞のことが分かった気がした。不思議な感覚だった。中野。その昔、すごく大好きだった人に会った。セントラルパークを抜けた明治大学の喫煙所では、強風にあおられ、工事中の外壁がガタガタと音を立てている。彼は最近、風になりたいそうだ。色々あったけど、それで考えて、やっぱり自分は風みたいに生きるのが向いてると思うんだよね(でも土みたいにどっしりともしたいけど、難しい)と言っていた。とてもしっくり来る見通しだった。彼にはずっと、軽やかでのびのびとしていてほしい。これからもずっと温かい場所にいて、そこでふざけたことを言っていてほしい。私も風になりたいと思った。風みたいに颯爽としていて、後味が良くて、間違いのない。そんな風にして新鮮に毎日を生きられたら、なんていいんだろう。帰り道、ブロードウェイで迷子の子どもを見た。前も見えないくらいに泣きながら、だけど歩みを止めない子ども。通りすがりのおじいちゃんとあたふたしていたらお母さんがやって来て、そしたらその子は初めてハッとした顔で泣き止んだ。あんなに小さいけど、自分の気持ちがよく分かっている(自分のことだもん、分かるよね)。昼にシャッフルで流れてきた、星野源の「兄妹」のことを思い出した。「眠るしか 夢でしか 逢えないようにできている」。大好きな曲。夜、最後に銭湯の前で見上げた姿、その背後の蛍光灯の光を、絶対に覚えておこうと思った。
- Thur,Oct,22 晴れ。昼過ぎに起きる。久しぶりの二日酔い。昼は近所の中華屋。ここに来ることももう無いのかもしれない。ラーメンが美味しくて、近所であまり外食することのなかった私にしては珍しく、何度か通ったと言えるお店。お店のテレビではPHPについてのニュースがずっと流れていて、温かい家で眠っている間に世界が進んでしまったような気分になった。渋い店主はずっとシュウマイの仕込みをしていて、その手元を見ながらラーメンをすすった。家に帰ってダラダラしてようやく引越し作業を始めた。手始めに本棚を片付ける。六箱できたあたりで早々に疲れてしまい、冷蔵庫の中身を片付けるために煮物を二つ作る。夜は買ってきたお寿司を食べたり、性懲りも無くお酒を飲んだり。疲れて早めに眠ってしまった。部屋ではぼんやりした光の中でくだらないアニメが流れ続けていて、途中まで何となく聞いていたけど記憶がない。安心した。安心するってこういう感じだったかと思った。忘れていた。闘うためには、そういう気持ちを捨て置かなくてはならなかった。私は最近、自分ではこんなことになりながらもかなり気丈にやれていると思っていたけど、意外と体はきちんと傷を覚えていた。もう安心していいのだった。それに飛び込む時の少しの緊張感を、また新鮮に感じることができる。それでもその手に捕まり飛び込むこと、忘れずに繰り返したい。そうやってどんどんまた柔らかくなる、そして新しい波に飛び乗っていきたい。深夜に少し起きてうどんを食べた。とても懐かしく、タイムスリップしたような時間だった。
大白小蟹『みどりちゃん、あのね』第3話(トーチWebより)
- Fri,Oct,23 曇り。起きてくだらないアニメの続きを見ながらパスタを食べる。くだらないことで笑えるのは幸せ。私は昔よりもだいぶ素直になることができてきたようだ。夕方に別れる。別れ際、「これから辛いことがあったらどうするの」と聞かれ、私は「周りの人をたくさん頼って、どうにかやってくよ」と答えた。また会う日まで元気でいたい。まずは、一人で立っていられるようになっていたい。経堂に行く。藤田くんとトイちゃんの住む家に遊びに行った。トイちゃんははじめまして。とてものびのびしていて、素敵な人だった。買い出し時、私は藤田くんの自転車を借り、二人はトイちゃんの自転車へ。仲が良くてかわいい二人。何となく、二人にかかれば曇りの街も主導権は彼らにあった。綺麗な人たちだなあ、と思いながら久しぶりに自転車を漕ぐ。やっぱり自転車が欲しい。次の家は川が近いし、きっと自転車があったら色々なところに行けるだろうな。二人の家でワインを開けながらドラマを見る。役所広司のネトフリのやつ。河合優実がすごかった。というかみんながすごかった。結局四話くらい見た。なんだか少し緊張してしまって、下手にお酒だけが回った。トイちゃんは少し霊感があるらしいのだけど、私には生き霊みたいなものが憑いているらしい。もっと詳しく聞けば良かった、すごく気になる。帰り道、ここ数日の怒濤の気持ちが押し寄せて、良くない思考のループにはまった。たしかに感じた良い感覚が、いとも簡単に私の手を離れていく時がある。大事にしたいのに悔しい。イヤホンを最大音量にして新宿の地下街を歩いてたら友人から電話が来る(申し訳ないが、やはり天使っているのかなと思う)。電話の約束をして電車に乗り込むと、次はたまたま職場の先輩が同じ車両に乗り込んでくる。なんかすごい。最寄りまでの10分間で、職場を離れている三週間近くのことをまくし立てる(やりすぎたかもしれない)。家に帰り、泥酔した頭で友人にあまりにも正直な言葉をまくし立てる。今日の私は久しぶりにあまり好きではない私だった。色々な人に申し訳なくなった。疲れているのに、頭だけが冴えて眠れず辛い。眠剤を飲み、友人から送られてきた曲を聴いたらいつの間にか寝ていた。早く憎しみから解放されたい。こんな気持ちで眠りにつく日が、一日でも無くなるといい。
- Sat,Oct,24 曇りのち雨。朝、眠剤とお酒が残った感じで気持ち悪い。バタバタとバイトへ。比較的のんびりした時間の多い日だった。外は急に寒くて雨が降っている。ようやくホットコーヒーが美味しそうな季節。途中、お米が足りなくなり近くのスーパーに行ったらやたらに時間がかかってしまい、ぼんやりと帰路を歩いていたら前からオーナーが全速力で走ってきて、あの光景は本当に夢みたいだった。申し訳なかった。土曜日のメンバーでスピリチュアルの話をした。やはり神様にきちんと祈ることは大切らしい。一緒にホールに立っていた子は、毎日お参りしていたらいいことちゃんとあったんですよ、デートにも誘われたし、と言っていて、かなり良かった。オーナーが行っているという、不思議な漢方内科も教えてもらった。多分そこの先生は他の人とは少し違うものが見えてるタイプみたいだ。面白そうなので、今度行きたい。一時帰宅し、約束の時間まで家で日記を書く。外は霧雨だけど、どこかから花火の音がした。夜から高円寺へ。何となく寒くて、薄手のMA-1をもう引っ張り出してしまった。冬を越せるだろうか、今年の冬はとびきり温かい格好をすると決めている。かすみさんところさんに会った。九州居酒屋に連れて行ってもらう。色々なことを話して笑った。あまり関係値もないのに、私は優しくしてもらいすぎている。本当にありがたい。別れ際、この前もそうだったけど、二人は私の姿が見えなくなるまで見送ってくれた。そして最後には腕がちぎれそうなくらいに手を振ってくれる。温かい。家に帰って、二人にもらったおかしを開けたらアドベントカレンダーが入っていた。冬に使って欲しいものがあって、と言われていたのだ。散歩しながら選んでくれたという。少し泣きそうになった。優しくしてもらった分を、私も返したい。上手に返したい。寝た。(PS)今日のバイト中、オーナーに、「次の家は壁が薄いから心配なんですよね~」と話したら、「でも人はみんなお互い様ってことが分かるかもよ~」と言われた。私は最近もっとそういうことが知りたい。それを手に入れたら楽になれることはきっと多いと思う。
- Sun,Oct,25 曇りのち雨。起きてうっすら体調が悪い。今週のだらけが体に出ている。昼過ぎに、ハロウィンのクッキーを持った小松が家にやって来る。一緒にクッキーを食べてお茶(ペパーミントティーも美味い、鼻がスッキリする感じ)を飲み、Podcastごっこをした。小松のすばらしいカメラとマイクで、本当に何かの活動をやっていそうな感じ。楽しかった。小松は「最近お気に入りのものを互いに紹介してみよう!」と言ったそばから「あーでも、やっぱり言いたくない。誰かに言った瞬間に、もう自分の中では大事にできない気がする」と言うような人だ。私はそういう小松のことがずっと好きで、小松といると、あまり他の人には感じないような、肩の力が抜けて楽になれる感覚がある。印刷会社で働いている小松は、あと一年で仕事を辞めてしまうらしい。その前に一緒に智春の本を作ろうよ、と言われて、それはすごくいいなあと思った。これまで何度かZINEを作ろうと思ったことはあったけど、結構腰が重たくて、今はその時じゃないのかなあと何となく思っていた。だけどそういう風に思えたのは、「その時」みたいなものが少しずつ近づいてきたのかもしれない。一年ってちょうど良いかも。次の物件も二年で出て行かないとならないし、タイムリミットがある中で何かを頑張ることが私はしたい。外はまた霧雨が降っている。粗大ごみのシールを買って帰った。少しだけ荷造りを進めては止め、結局また日記を書いている。来週はもっともっといい週にしたい。
お休みチーズ